受賞者紹介

第61回 社会貢献者表彰
あべ ゆう

阿部 裕

(東京都)
阿部 裕

日本で数少ない外国人専門の精神科医で明治学院大学名誉教授。1990年に入管法が改正されると、在留外国人が増加。阿部裕さんが勤務していた栃木県の病院外来にも多くの南米系の外来患者が来るようになる。とりわけ精神科領域では外科や内科の診察以上に、患者とのコミュニケーションが重要なため、日本ではこの領域で外国人を受け入れる医療施設は殆どない。そこで、留学経験からスペイン語の堪能な阿部さんは、南米出身の日系人の支援をしたいと、外国人が多く住む首都圏の東京四谷に2006年に「四谷ゆいクリニック」を開業。現在では、診察を受ける人の8割近くが外国人である。20名弱の医師と認定心理士、通訳、受付事務が、英語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語などには直接対応し、それ以外の言語は、オンラインによるビデオまたは電話通訳を使って診療し21言語をカバーしている。何語を話す患者が来ても断らずに診療するよう心掛けている。また、阿部さんは多文化社会専門職機構の代表やNPO法人国際活動市民中心の副代表も務め、今後さらに増加していくことであろう在留外国人に対し、教育や労働環境などが精神に大きな影響を及ぼすため、医療支援のみならず多文化共生のための多岐にわたる受け入れ態勢の整備が全国的に必要だと考え支援活動を行っている。

まったく予想もしていなかった栄えある賞をいただくことになり、深く感謝申し上げます。長い間精神医学一筋で来た私にとって、皆様の素晴らしい活動をお聞きできたことは大変貴重なものであり、そして、『社会貢献とは何なのか』を改めて深く考えさせられる機会となりました。

このクリニックを開院するきっかけは、1989年のマドリード大学医学部精神科への留学。私はそれまで自治医科大学に勤務していましたが、思いもよらぬスペイン留学により、帰国後91年にはブラジル人やペルー人の外来診療を担当することとなりました。留学前には全く受診のなかったラテンアメリカ人が外来診療に訪れることになった理由、それは90年6月の入管法の改正により、日系ラテンアメリカ人二世・三世が日本に自由に入国できることになったことでした。

帰国後、まさかスペイン語で診療するとは夢にも思っていませんでしたが、これこそが私の人生の分岐点でした。

外来診療をするにあたり、私はスペイン語対応しかできずポルトガル語対応に困っていた矢先、運よくポルトガル語を母語とする日系ブラジル人心療内科医に出会い、2人でラテンアメリカ人診療をスタートさせました。初めは大学病院だけでしたが、徐々にパート勤務先の精神科病院やクリニックでも彼らを診療するようになり、受け入れ先を拡充していきました。その後はしばらく、大学病院、精神科病院、クリニック、NPO 法人で診療をしていたものの、所属大学が明治学院大学心理学部に変更となったことで、自由にラテンアメリカ人を診療することが困難となりました。

そこで、今回の賞をいただくきっかけにもなった『四谷ゆいクリニック』、外国人を中心に診る多文化クリニックを2006年に開院。初期はスペイン語、ポルトガル語、英語診療が主でしたが、徐々にあらゆる言語圏からの患者を受け入れるようになりました。上記言語と韓国語に関してはクリニックにて直接対応、それ以外の21言語はオンラインテレビ電話通訳を用いて診療を行っています。結果的に今では初診患者の9割近くが外国人となっています。

また、多言語対応は医師だけではありません。心理士や事務スタッフによる多言語支援があってこそ現在の外国人診療を可能とさせています。

精神疾患をもつ患者の支援、中でも外国人の場合は特に難しく、国が異なることで生まれる彼らの文化・社会的背景を解ったうえで、精神医学的な診療を行わなければなりません。そのため定住者、労働者、難民、留学生等さまざまな立場の外国人それぞれのこころに寄り添った診療を行うことが重要であると感じています。今後の多文化共生社会を見据えて、医療通訳育成を含め、外国人が安心して精神医療を受けられる社会になるよう努力していきたいと思います。

  • 診察風景
    診察風景
  • 診察風景(多文化ルーム)
    診察風景(多文化ルーム)
  • 診察室壁面
    診察室壁面
  • 受付風景
    受付風景
  • 待合室風景
    待合室風景
  • 待合室の掲示板
    待合室の掲示板
  • 箱庭療法
    箱庭療法
  • 四谷ゆいクリニック正面玄関
    四谷ゆいクリニック正面玄関
「ひとしずく」社会課題に立ち向かう方々を応援するサイト