受賞者紹介

第61回 社会貢献者表彰
にほんがんをほごするかい

日本雁を保護する会

(宮城県)
日本雁を保護する会 会長 呉地 正行
会長 呉地 正行

日本人と「雁(ガン)」の歴史は古く、万葉集にもガンの歌が66も登場するという。1970年.71年に、日本のガンは転換期を迎え、全国のガンの数は3,000羽余りまでに減少し、越冬地となっていた仙台市の沼や田んぼからは姿を消した。このような中で、前身の「福田町の雁を保護する会」が1970年に結成され、ガン類保護元年となった。日本では、11種類が記録され、かつて多数が飛来し、その後姿を消した種類の代表の一種類がシジュウカラガン。以来、会ではかつての歴史的な越冬地であった仙台市と多賀城市にまたがる七北田(ななきた)川の下流域に広がる七北低地にシジュウカラガンの群れを呼び戻す活動に入った。ガンの中でもシジュウカラガンはアリューシャンと千島列島の小島で繁殖していたが、毛皮目的のために放たれたキツネの餌食になり、繁殖地の島から姿を消し、1938年には、絶滅したと考えられていた。その後、奇跡的に生き残っていた群れが発見され、米国の研究者と共にロシアの鳥類学者、八木山動物公園の協力を得て、1992年に日米露3国による繁殖地での放鳥活動が進められた。放鳥開始当初は成果が上がらなかったが、渡り鳥の休息地を確保するため、冬でも田んぼに水を張る「ふゆみずたんぼ」を農家との話し合いや説得で進めたところ、2021年に86年ぶりに七北田低地にシジュウカラガン数羽が舞い降りた。現在、会を中心に仙台ロータリークラブ、仙台育英学園、環境コンサルタント会社の4団体で同地へ群れを呼び戻す活動を続けている。

このたびは、社会貢献者表彰式典で、大変栄誉ある賞を賜り、多様な草の根活動を行っている皆さんとの交流もでき、心から感謝申し上げます。

 日本雁を保護する会は、古来より日本人に親しまれ、日本の基層文化でもある冬の渡り鳥の雁(がん)を絶滅の危機から救い、雁のいる風景を全国に取り戻し、次世代へ受け渡す取り組みを行っています。

1970年に、当時雁の最大級の越冬地だった宮城県仙台市の福田町での雁の密猟防止のために、「福田町の雁を保護する会」として発足し、活動を開始しました。それはやがて、国内外の関係者と連携した活動へと発展しました。国内の雁の生態調査と生息地の保全、「ガン類渡来地目録」刊行、標識と電波送信器を用いた繁殖地ロシアまでの渡り経路の解明、農業者と協働した「ふゆみずたんぼ」の普及などによる生息地の拡大と啓発普及活動を行なってきました。

 その結果、1970年には数千羽まで減少した雁類(マガン、ヒシクイ、コクガン)の羽数はその後増加し、特にマガンは急増しました。

一方で、保護活動の開始以前に渡来が途絶えた希少種のシジュウカラガンとハクガンは、日米ロの国際プロジェクトを立ち上げ、1983年から羽数回復・復元に取組み、成果があがりました。シジュウカラガンは、八木山動物公園、米国魚類野生生物局、ロシア科学アカデミーと協働し、1995~2010年に、繁殖地の千島列島に人工ふ化した551羽を放鳥。長い年月をかけ、その群れは日本まで渡るようになり、1万羽以上にまで回復。その全貌を「シジュウカラガン物語」(京都通信社)として出版しました。

そのシジュウカラガンを、歴史的越冬地の七北田低地(ななきたていち)へ呼び戻す取り組みも始めました。同地は、当会誕生の地、仙台市福田町と七北田川対岸の多賀城市の水田地帯を含む地域です。まず、歴史的越冬地だったことを周知する活動を始め、2022年には七北田低地の多賀城市側に学舎がある、仙台育英学園の高校生を主役とした、産官学民によるシジュウカラガン復活プロジェクトを立ち上げました。

地元の環境コンサル会社が事務局を担い、多賀城市、地元町内会、仙台市八木山動物公園も巻き込んだ、集会、シンポジウム、イベントなどを通じ、若者の発想を盛り込んだ取り組みが根付いてきました。当会は次世代の若者へ、シジュウカラガン復活の取組のバトンタッチするために、この取り組みを支援してゆきます。今後ともご支援よろしくお願い申し上げます。

  • 日ロ米3か国共同での回復計画の開始 1992年1月
    日ロ米3か国共同での回復計画の開始 1992年1月
  • 八木山動物公園などの支援で繁殖地の千島エカルマ島でシジュウカラガンの放鳥(最後の放鳥2010年9月10日)
    八木山動物公園などの支援で繁殖地の千島エカルマ島でシジュウカラガンの放鳥(最後の放鳥2010年9月10日)
  • ふゆみずたんぼに舞い降りたシジュウカラガンの群れ 2019年12月8日
    ふゆみずたんぼに舞い降りたシジュウカラガンの群れ 2019年12月8日
  • 第22回山階賞を赤坂御用地で秋篠宮殿下から賞を授与される。2022年7月22日
    第22回山階賞を赤坂御用地で秋篠宮殿下から賞を授与される。2022年7月22日
  • 山階鳥類研究所と共同で渡りの経路と繫殖地点を解明 2022年10月
    山階鳥類研究所と共同で渡りの経路と繫殖地点を解明 2022年10月
  • 高校生(仙台育英学園)を主役とし、産官学民共同の七北田低地にシジュウカラガンを呼び戻すプロジェクトの立上げ。 2022年10月19日
    高校生(仙台育英学園)を主役とし、産官学民共同の七北田低地にシジュウカラガンを呼び戻すプロジェクトの立上げ。 2022年10月19日
  • 呉地がラムサール条約のラムサール賞ワイズユース部門を日本人で初めて受賞〔スイス・ジュネーブ〕2022年11月7日
    呉地がラムサール条約のラムサール賞ワイズユース部門を日本人で初めて受賞〔スイス・ジュネーブ〕2022年11月7日
  • 七北田低地の地域住民と地元高校生らが、世界湿地の日に、シジュウカラガンの未来について意見交換 2024年2月3日
    七北田低地の地域住民と地元高校生らが、世界湿地の日に、シジュウカラガンの未来について意見交換 2024年2月3日
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