受賞者紹介

第61回 社会貢献者表彰
ねこのあしあと

NPO法人 猫の足あと

(東京都)
NPO法人 猫の足あと 代表理事 岸田 久惠
代表理事 岸田 久惠

小学校教師をしていた岸田久惠さんは、各家庭の経済力が教育格差となって子どもたちが影響を受けることにやりきれない思いを抱いていおり、無料塾の必要性を感じていた。2011年、在職中に西東京市内の自宅の一室で家族と共に無料塾「猫の足あと」を開始。2016年には私財を全てつぎ込み自宅近くに土地を購入して「猫の足あとハウス」を建てた。1階を学習支援の拠点とし、中学3年生の勉強会、中学1、2年生の勉強会、小学生の宿題クラブを行っている。学習支援と食の問題は切り離せないという考えの下、中学生の勉強会では夕食も提供しており、こちらも無料で提供。経験格差も縮めようと、クリスマスやハロウィンなどの季節行事、夏休みには理科の実験教室やパフェ作り、じゃがいも掘りなどの農業体験や社会科見学も行っている。学習指導ボランティアの大学生、夕食作りなどを手伝う地域の人、かつて勉強を教えてもらっていた子が、教える側として戻ってくるなど人と人とのつながりで活動を発展させてきた。「猫の足あとハウス」2階の5室は、児童養護施設を卒所した若者や奨学金を受けながら学ぶ大学生、奨学金を返済中で非正規雇用で働く若者などに低額で貸している。現在第2、第3ハウスを設け、住宅支援を広げている。

2011年2月に、中学3年生対象の無料塾を自宅で始めたのがスタートです。当時学生だった娘と息子が先生役、中学校教師の夫は顧問、小学校教師の私はご飯担当、そんな風に家族で始めた活動でした。それから13年、仕事に就いた娘も息子も教える現場を支え続け、息子は副代表です。様々な活動で出会った地域の方々が、サポートスタッフとしてたくさん手を貸してくれるようになりました。行政や他の支援団体、多様な立場の方々に出会い、連携や応援も広がってきました。

今回、授賞式に家族4人で参加させていただけたのは、地道な活動を続けてきたご褒美でしょうか。感謝してもし切れません。身に余る光栄と、共に表彰された方々のすばらしさに刺激を受け、新たな意欲をもつことができました。

 退職をした2016年4月からは、小学生の居場所、中学生の学習支援、シェアハウスでの住居支援と活動を拡大し、2018年1月にはNPO法人格を取得しました。コロナ禍に若者の居住環境は悪化し、私たちは支援の場を増やしましたが、想定を超える様々な事態に、スタッフも試行錯誤で対応してきました。

 子どもも若者も、自己責任という言葉に縛られ、なかなか助けてと言えません。私たちが支援してきた女の子には、障害を持った兄弟や精神疾患を抱えた母親のために家事やバイトに追われ自分を犠牲にしてきた子が何人かいました。虐待を受けたり、強い支配を受けたりした家族からようやく逃れてきた子も何人かいました。不登校や引きこもり状態の子どもや若者、犯罪に巻き込まれた子どももいます。そうした子の傷つきは深く、簡単には自立できません。

それでも、「一人暮らしに挑戦してみて自分ができることとできないことがわかってよかった。まずは入院してしっかり病気を治すことが第1だと気が付いた」と語ってくれた女性や、「岸田さんに出会わなかったら自殺していたかもしれない。今度は岸田さんが困った時に僕が助けに行きます」と手紙をくれた男の子の言葉に、私たちも教えられ、励まされてきました。

これからも、出会った子どもや若者に、「助けてと言っていいんだよ」、「そのままのあなたが大切」、「失敗や停滞も無駄なことはひとつもないよ」と伝えて、伴走していきたいと思います。そして、地域で共に生きる仲間として、希望を育んでいけたらと思っています。

  • 猫の足あとハウス
    猫の足あとハウス
  • ハウスでの勉強会の様子
    ハウスでの勉強会の様子
  • 自宅の1室でスタートした勉強会
    自宅の1室でスタートした勉強会
  • 宿題クラブで活動する小学生
    宿題クラブで活動する小学生
  • 山梨県の農土香でじゃがいも掘り体験
    山梨県の農土香でじゃがいも掘り体験
  • 夏休みの理科実験教室
    夏休みの理科実験教室
  • ハロウィンパーティーで仮装
    ハロウィンパーティーで仮装
  • クリスマスにお菓子の家づくり
    クリスマスにお菓子の家づくり
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