NPO法人 セイブ・イラクチルドレン・名古屋

「イラク人医師が日本の病院で医療研修を受けることを全面サポートすること」が主な活動。理事長の小野万里子さんが、度重なる戦争の後遺症に苦しむイラクで、劣悪な衛生環境や深刻な医薬品不足、ベッドに力なく横たわる小児がんの子どもたちを目にしたのは2003年。その状況を打開すべく、およそ20年に渡りイラクへ医療支援とイラク人医師らを日本へ呼び寄せ、名古屋市の病院で研修してきた。参加する医師の渡航費、生活費の負担はゼロ。これまでに医師52名、看護師2名、放射線機械技師2名の研修支援を行った。研修に参加した医師は、骨髄移植の他、骨髄移植でも治る見込みのない小児がん患者に救命の可能性があるCAR-T細胞療法を習得できる。さらに日本の病院の清潔さ、この患者をチームで絶対に救おうという日本式の医療を学ぶ。2023年5月にイラク・バスラで念願のがん治療専門病院が開設された。開設責任者は第一回目に来日研修した医師が務める。さらに1年後、イラクでは初の骨髄移植が可能なセンターも開設される。これまでの医療研修総額は3,782万円、医薬品・医療機器支援は2,497万円。イラクに希望の種を蒔き続ける取り組み。
「イラク支援を通じて、あらためて平和を願う」
このたびは栄えある受賞者として表彰いただきありがとうございます。本当に励みになることで、地方の小さな活動に光を当てて下さったことに心からの感謝を申し上げます。
私どもは2003年のイラク戦争直前にイラクのがんセンターの医師からの依頼を受けたことを契機に医療支援活動を開始し、現在はイラク人医師の愛知県内の病院での医療研修を全面サポートすることを中心に活動しています。この21年間で約60名の医師らに医療研修を実施してきました。彼らは、日本で習得した医療技術や知識をイラクの病院・大学に伝えるだけでなく、帰国後も日本の医療機関とインターネットでつながり、症例の診断や対処方法についてもアドバイスを得て患者さんの命を救っています。愛知県内の医療者もこのような形でイラクの医療を支えることに惜しみない努力を払って下さっています。
イラク戦争後も内戦や宗教過激派支配などで塗炭の苦しみを味わい続けた医師たちが異口同音に「希望を失わない限り、イラクは死なない。」と言って、安全な日本から命の保証のないイラクの医療現場に戻る姿を20年間見てきて、支える側の私たちも人間の尊厳を信じることができ勇気をもらってきました。このようなすばらしいイラク人医療者の姿もぜひお伝えしたいと思います。
それにつけても思いますのは、一度破壊されたものを復興させることの困難さです。イラクでは戦争と経済制裁で社会の基本システム自体が破壊されました。中東随一の高レベルを誇った医療現場も例外ではなく、そのために多くの命が失われました。それだけでなく、その間教育を受けられなかった世代が未来の大きな足かせになって国の復興にのしかかってきています。物理的な破壊だけではないのです。このことは現在のウクライナやパレスチナの惨状からも容易に想像できると思います。
イラクの破壊と、それに立ち向かう尊厳あるイラク人らを直に見てきた私たちは、あまねく世界の平和を心から願い、それを日本の皆様に訴えたいと思います。それが栄えある賞をいただいた私たちの義務でもあると思うからです。
このたびは本当にありがとうございました。