受賞者紹介

第62回 社会貢献者表彰
みちむら しずえ

道村 静江

(神奈川県)
道村 静江
点字学習を支援する会 会長
かんじクラウド株式会社
取締役会長

理科の教師を志していた道村静江さんは福井県立盲学校に配属され、2年後には横浜市立盲学校へ移り、通算28年盲学校に勤務した。当初、点字の知識が皆無だったことから猛勉強し、盲学校教員用に「点訳便利帳」を作った。これが全国の盲学校から評判を呼び、2002年に点字学習を支援する会を設立。やがてパソコンが普及し始め、視覚障がい者もパソコンを利用するようになったが、点字使用者は漢字を学習する機会がほとんどなく、漢字変換ができない盲学校の生徒のために『視覚障害者の漢字学習』(小学1年生.中学校編)を発行した。その後、道村さんは一般の小、中学校に異動となったが、視覚に障がいがなくても、漢字を覚えられない学習障がいや発達障がいのある子どもがいることを実感し、見て唱えて覚えるミチムラ式漢字学習法を考案し子どもの学力向上に貢献。退職後は、ミチムラ式漢字カードを製作、漢字指導の改善・普及に力を入れ、全国各地で年間60回講演活動を行っている。2018年に息子の友晴さんと創業したかんじクラウド株式会社では、2021年コロナ禍、ICT教育が広がったことに合わせ、電子書籍「ミチムラ式漢字eブック」を発行した。音声や写真、アニメーションが網羅された「ミチムラ式漢字eブック」は、20校近くが採用している。海外在住の日本人児童へ継承語として漢字をいかに楽しく学んでもらうか、オンラインで指導するなど、子どもの漢字教育に尽力し続けている。

推薦者:公益財団法人 共用品推進機構 業務部調査研究課 課長 金丸 淳子

推薦者の方が、私が取り組んだ25年間の経緯を詳しく書いてくださっていますので、重複を避けて、私の思いの中にあることを綴ってみたいと思います。

大学卒業後、思ってもいなかった盲学校への赴任に内心驚き戸惑いました。中学校で理科教育を教えたかったのにと思いつつも、目の前には素直で学ぶ意欲満載のかわいい子どもたちがいました。全盲生に見たこともない触れない自然の様子やしくみをどう教えたらよいのか迷うことだらけで、私自身の経験や学んできた教育的手法は役に立たないことを突きつけられました。そこで、教師として教えるべきものを第一義に考えるよりも、彼らが何に困り、それをどう克服し、自立のために何の力を身に付ければ良いのかを考えることを優先しました。そして、彼らに合った学びの進め方を追求するようになっていきました。小学部の子を担当した時には、理科なんてどうでもいい。いつからだって学べる。しかし、学びのスタートには文字の習得が何よりも大事で、そこから言葉の世界を豊かにして、情報の受信・発信を身に付けることが必要です。だから、門外漢である点字を40年間・漢字を25年間、徹底的に研究しました。

つまり、弱者に寄り添った教育というのは、既成の知識や思考を教え込むのではなく、彼らに合った方法で、わかりやすく楽しみながらできる方法でなければいけない。そうして取り組んだ漢字の学び方は、従来のひたすら書いて覚える方法から脱却して、漢字のしくみを捉えて合理的に効率良く学べて、成り立ちから一字の示す意味を知り、言葉の使い方を広げていくなど、漢字の本質に迫るものになったと自負しています。

特に、発達障害や学習障害で従来の書く学習法が合わない子たちには、興味関心が持てる様々な入り口から学び始めればよいのです。過去に漢字学習がいやで身に付けられずにいた人も、漢字のおもしろさ・奥深さ・見事さを知りながら学び直すことができます。また、海外在住の日本語を学びたい人にも有効な学習法だと思います。

今回、社会的弱者の方たちに寄り添って活動している受賞者の皆さんの熱い思いやご苦労を垣間見て、互いに同じような思いや構想の中で動いているのを強く感じました。弱者の人に寄り添う活動をさらに広められたら、生きにくいと感じている人たちを勇気づけ、この社会を変えていくことにつながるのではないかと思いました。

  • 視覚障害者の漢字学習(点字版)
    視覚障害者の漢字学習(点字版)
  • 盲児と一緒に漢字学習
    盲児と一緒に漢字学習
  • 小学校で漢字の授業
    小学校で漢字の授業
  • なるほど!の漢字授業
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  • 友達と唱え合って覚える
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  • 職員研修(質問に答える)
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  • 職員研修(楽しくインプット)
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  • タブレットを使った授業
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