表彰式典

第56回 社会貢献者表彰式典(於:帝国ホテル東京)

受賞者代表挨拶

受賞者代表・特定非営利活動法人Seed to Table 伊能 まゆ さん

受賞者代表・特定非営利活動法人Seed to Table 伊能まゆ さん

ベトナムの農村で活動を地域の環境を守り、人々が幸せに安心して暮らしていくための活動を実施しております、特定非営利活動法人Seed to Tableの代表、伊能まゆと申します。この度は大変意義深い、栄えある賞を賜り、誠にありがとうございました。

Seed to Tableは2009年よりベトナム北部の山岳地域にて少数民族であるムオン族の皆さんと在来のタネを守る活動や環境教育を開始しました。おりしもベトナムは目覚ましい経済発展の最中で、環境問題や貧富の格差が生じていました。とりわけ、ベトナム南部メコンデルタの農村部では気候変動が人々の暮らしに影響を及ぼし始めており、また、土地を失った農家が日雇い労働者となるなど、貧困化が進んでいました。こうした状況を鑑み、メコンデルタへ活動の拠点を移し、貧困世帯の生活改善、有機農業を通じた生計向上と地域の環境改善、次世代の育成、そして、枯葉剤被害者へ支援などを行ってきました。

私たちの支援の方法は、支援が終了しても地域の人々が自分の足で立って暮らしていけるよう、「魚」ではなく「釣り竿」と支援し、「釣り方」について共に考え、実践していくというものです。とりわけ、貧困世帯は安定した現金収入がないため、現金を支援したり、貸してしまうと、日々の生活費などに使ってしまい、貧困から脱却できません。そこで、私たちはお金ではなく、アヒルや牛を貸す「銀行」を作りました。

まず、貧困世帯は「アヒル銀行」から25羽のヒナを借り、アヒルを育てて食肉として販売した後にヒナ代を返済します。アヒルの飼育に成功した世帯は借りるヒナの数を増やしたり、牛を借りることができます。「牛銀行」では貧困世帯がメスの牛を一頭借り、妊娠・出産後、メスの子牛を一頭、返済します。「銀行」という形式を取り、村の財産として管理・運営していくことで、多くの貧困世帯をサポートできる仕組みを作りました。さらに、貧困世帯は研修に参加し、アヒルや牛を飼う方法や、餌代や売上げなどお金の出入りを管理できるよう帳簿のつけ方を学びます。この研修に参加しない人はアヒルや牛を借りることはできません。貧困世帯が研修で飼育の仕方を学び、「銀行」の資本となるアヒルや牛を失わないようにすることで、長く「銀行」を維持・運営できる体制にしました。これまでに延べ1,000世帯が「銀行」からアヒルや牛を借り、約70%の世帯が貧困から脱却しました。中には、1年目にアヒルの飼育に成功し、2年目に牛を借りて増やし、3年後には0.5haの水田を購入するまで経済力をつけた世帯もありました。私たちが支援した金額はインフラ整備事業などに比べると、遥かに少額ですが、多くの貧困世帯が自分の足で立ち、自信をもって人生を送れるようになりました。

また、私たちは次世代の育成にも取り組んでいます。先日、第76回国連総会が開催され、各国の首脳はほぼ例外なく、気候変動が人々の暮らしや環境に及ぼす深刻な影響や早急な対応が必要であることに触れていました。私たち、一人ひとりのライフスタイルを根本から見直し、待ったなしで変えていかなければならない時が来ています。Seed to Tableは、ベトナムの農村で自然を守るだけではなく、自然を守る人々の暮らしや幸せも大事に考えてきました。なぜなら、人々の暮らしが安定せず、幸せに暮らせなければ、自然を守ることも難しいからです。人々が楽しく幸せに暮らしていくためには、経済的な安定だけではなく、助け合える家族や仲間の存在が必要です。そして、人々の心を豊かにする地域の文化を守り、家庭や学校だけではない広い意味での教育が必要だと考えます。こうした考えにより、ベトナムの子供たちと学校菜園を作り、有機野菜を育て、生態系を観察し、シェフの皆さんと共に地域の食文化について学び、自然資源の大切さや今のライフスタイルの問題点や改善策について話し合ってきました。この活動を通じて、若い世代が気づき、考え、行動していく姿を見て、手ごたえを感じています。世界の情勢は、ますます混沌とし、将来がどうなるのか、見通せません。しかし、これからの社会を担う若者が、希望を失わず、自分の生まれた地域の自然や文化を大事にし、家族や仲間と支え合って生きていけるよう、私たちは地道に活動を続けていきたいと思います。

最後に改めまして、私どものような小さな団体の小さな活動にご関心を寄せて頂き、そして、評価してくださり、誠にありがとうございました。今後も希望を捨てず、精進して参ります。

特定非営利活動法人Seed to Table
伊能 まゆ